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画家のアトリエはパワースポット!? 後編

天窓から差し込む、おだやかな光。幸運なことに見学者は私たちだけでした。しんとした空間に2人の声が響きます。

「ここ、落ち着くなー。北窓から入ってくる光って、強すぎないのがいいよね」(妹)

居心地の良い場所には、鼻の効く我が妹。確かにこのアトリエの1番のポイントは、北向きの大きな窓です。日本では南向きが好まれますが、画家のアトリエは北向きがベター。刻々と光の向きが変わる南向きだと、影がどんどん変わってしまいます。直射日光が入りにくい北向きなら、安定した自然光が手に入るというわけです。天窓も、長時間の採光のためには欠かせません。まさに理想的なアトリエ!

montparnasse201411_19床や天井、壁の腰板などは、建築当時の部材を再利用しているのだそう。彝が使ったイーゼルや家具、作品の複製が置かれていて、ほんのりと画家の気配が漂っているような気がします。調度品は彝の作品に良く出てくるものばかり。

隣の居間では映像が上映されていました。

montparnasse201411_20代表作の「エロシェンコ氏の像」。盲目のロシアの詩人・エロシェンコは、彝の友人の鶴田吾郎が、目白駅で見かけてモデルにスカウトした人物。このアトリエに2人並んで制作し、3日ほどで仕上げた作品です。

montparnasse201411_21相馬俊子の肖像画。彝を援助していた中村屋のオーナー・相馬家の長女で、彝は彼女に恋していました。しかし結婚は許されず、2人は離れ離れに。

「この居間で暮らしてたんだね。身体が弱いから、すぐに休憩できるようにベッドを置いて。しんどそうだけど、ここなら集中して制作できただろうね」(妹)

montparnasse201411_22病床では、部屋の窓から庭の芝生や木々を眺めて過ごしていたそう。アトリエには台所や、彝の世話をしていた岡崎きいの部屋などがあり、生活感が感じられます。

montparnasse201411_23名残惜しい気持ちをこらえて、最後に庭からアトリエをパシャリ。ランチを堪能しすぎた我々、この時点ですでに、次のお目当ての閉館時間まで40分しかなかったのです。スタッフの方に道を聞き、地図をもらって出発。

montparnasse201411_24再び住宅街をくねくねと、焦りつつ歩きます。あ、目印の聖母病院が見えてきた。

「このへん、文化人がたくさん住んでいただけあって、オシャレなうちが多いよね! 100年経っても、土地の雰囲気って変わらないのかも。そういえば夏目漱石の『こころ』に、目白の銀杏並木を見にいく場面があるけど、今でも銀杏並木きれいだし、知的な雰囲気がするもんね」(妹)

montparnasse201411_25文学好きの妹は、落合がすっかり気に入った様子。ウロウロしつつ、何とか「佐伯祐三アトリエ記念館」にたどり着きました。

montparnasse201411_26銀杏の木に囲まれたアトリエ。大きな窓や建物の雰囲気は、中村彝のアトリエに似ています。スタッフの女性が「彝のほうからいらしたんでしょ。さっき連絡があったんですよ」と声をかけてくれました。ギリギリなので、ご心配をおかけしたみたいです。

「心遣いが沁みるねぇ」(妹)

佐伯祐三(1898-1928)は、中村彝よりも10歳ほど年下。大正9(1920)年に象牙美術商の娘・池田米子と結婚し、翌年にこのアトリエ付き住宅を新築しました。老朽化が進んでいたのを修復し、平成22(2010)年に公開されたのだそう。

montparnasse201411_27もとは洋風のアトリエの南側に、家族が住む和風の母屋が建てられていました。アトリエ全体を復元した模型が展示されています。

montparnasse201411_28佐伯祐三が描いた『下落合風景(テニス)』の複製。佐伯というとヴラマンクやユトリロの影響を受けて描いたパリの風景画(リンク:https://www.youtube.com/watch?v=RU1fcHydMJU)が有名なので、地元の風景は新鮮に感じます。

montparnasse201411_29テラスでつながるアトリエ脇の小部屋に移動。閉館間際で人もいず、様子をうかがう妹は不審者にしか見えません……。

montparnasse201411_30絵葉書などが買える管理棟には、佐伯がここで描いた「下落合風景」シリーズの作品と、描いた場所の写真を見くらべられるアルバムがありました。全然違うようでいて、高低差や空の面積などは同じなところが面白い。

中村彝は8年とすこし、佐伯祐三は4年。2人とも、落合のアトリエで過ごした時間は長くはありません。それでも、ここで過ごした時間が濃密だったことは、アトリエのそこかしこから伝わってくるようでした。画家の湧き上がる創作エネルギーを疑似体験できる、まさに「パワースポット」という感じ。2人が若くして亡くなったのは切ないことですが、恵まれた空間で絵に没頭できた数年は、幸せな時間だったはず。

ちょっと異国の風を感じる、目白のアトリエめぐり。新年のやる気アップにも、ぜひおすすめしたいコースです。

■新宿区立中村彝アトリエ記念館
http://www.regasu-shinjuku.or.jp/?p=40357
東京都新宿区下落合3-5-7
開館時間:10:00~16:30
休館日:月曜日(ただし、祝日の場合はその翌日)、年末年始(12 月29 日~1 月3 日)
入館料:無料

■新宿区立佐伯祐三アトリエ記念館
http://www.regasu-shinjuku.or.jp/?p=1667
東京都新宿区中落合2-4-21
開館時間:5月~9月10:00~16:30/10月~4月 10:00~16:00
休館日:月曜日(ただし、祝日の場合はその翌日)、年末年始(12 月29 日~1 月3 日)
入館料:無料

大原しまい 大原しまい
アート好きライターの姉が妹(http://yuberita.hatenablog.com/)を誘い、過去・現代問わず、池袋界隈のアートを訪ねてフラフラ歩く姉妹散歩。「池袋モンパルナス」の画家たちゆかりの地をベースに、近隣の美術館やアートイベント、途中で見つけた居心地のいいカフェなどを紹介していきます。