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WACCA × 宮武恵子 インタビュー
WACCA ART 関係者インタビュー
商業施設の真ん中で、ファッションが循環する
——学生・市民・街をつなぐ学びの場としてのWACCA
共立女子大学 家政学部 被服学科 教授として、長年ファッションデザイン教育と向き合ってきた宮武恵子氏。
企業でのデザイナー経験を経て、現在は「サーキュラーファッション(循環型ファッション)」を軸に、学生とともに社会課題に向き合う実践的な教育研究を続けています。
廃棄寸前のデニム、織物生産の過程で捨てられる端材「捨て耳」、残在庫の服飾資材、そして廃棄される化粧品バルク。本来は使い道を失った素材に、新たな価値を与えるその取り組みの発表の場として、近年選ばれているのがWACCA池袋です。
今回は、宮武氏にWACCAでのアップサイクルファッションショーや展示を通じて感じたこと、そして商業施設という場所でアートやファッションを「ひらく」ことの意義について、お話を伺いました。

売れる服をつくる仕事から、廃材と向き合う教育へ
宮武氏は、アパレル企業でデザイナーとしてのキャリアを積んできました。
企業の現場では、常に「売れる服」をつくることが求められる一方で、その裏側では多くのサンプルや端材が、まだ十分に使える状態のまま廃棄されていく現実がありました。
「きれいなものがそのまま廃棄されていくのを見て、ずっと違和感がありました」
商品として世に出る以前の段階で役目を終えてしまう素材があまりにも多いことに、次第に疑問を感じるようになったといいます。
2011年に共立女子大学に着任した宮武氏は、その違和感を出発点に、廃材をテーマにしたゼミを立ち上げました。
当初は「アップサイクル」という言葉も一般的ではなく、「リメイク」「リユース」という言葉で学生に説明していたと振り返ります。
「かわいく作り替えることが目的になってしまうと、その後どうなるのかまで考えられなくなってしまいます」
そうではなく、素材のことや環境のことまで考えながらデザインする大事さを伝えたいと思い、ゼミを開催していました。
しかし、千代田区清掃局に古着提供の相談に行った際、
「そこで作った服が、またここに戻ってくるかもしれませんよ。最後まで循環を考えてください」
と指摘された経験が、「循環の最後までをデザインする」という現在の教育方針につながっていきました。
以降、宮武氏のゼミでは、作品を完成させることだけでなく、その素材がどこから来て、どのような経路をたどり、最終的にどう扱われるのかまでを含めて考える姿勢が共有されていったといいます。
WACCAとの出会い──やりにくいはずの場所で、挑戦する意味
WACCAとの関わりは、モーンガータの紹介を通じて始まりました。
アップサイクルファッションという取り組みをWACCAにプレゼンテーションする機会があり、そこでWACCA側がその意義に共感し、ファッションショーの開催が決まります。
しかし、実際に現地を見たときの第一印象は、決して「やりやすい会場」ではなかったと語ります。

「正直、ファッションショーの会場としては非常にやりにくいと思いました」
エスカレーターや階段、一般客の動線が交差する商業施設は、通常のランウェイショーとはまったく異なる環境でした。
それでも宮武氏は、整えられた環境よりも、想定外の出来事が起こる場に学生を置くことの方が、教育として意味があると考えたといいます。
「学外でやることに、何より意味があると思っていました」
千代田区での環境フェア出展などを通じて、「公共性のある場所で見せること」の重要性を実感してきた経験も、WACCAでの挑戦を後押ししました。
カオスな商業施設だからこそ生まれた学びと工夫
WACCAでのファッションショーは、毎年試行錯誤の連続でした。
音響機材の配置、モデルの動線、来館者との距離感など、事前にすべてを決めきれない状況の中で、現場で判断しながら対応する力が学生に求められました。
「エスカレーターからモデルが降りてくる演出は賛否両論ありますが(笑)、ひとつのポイントになっていると思います」
年を重ねるごとに、階段や吹き抜けをどう使うか、観客の視線をどう受け止めるかといった工夫も積み重ねられていきました。
その過程で学生たちは、計画通りに進めること以上に、状況に応じて判断する力や、他者の存在を意識する視点を身につけていったといいます。

「上品でクールなショーというより、WACCAのジャンクな感じが、アップサイクルのテーマとすごく合っていると思いました」
完成された会場ではなく、日常と非日常が入り混じるWACCAという空間だからこそ、アップサイクルという考え方がより自然に伝わったと感じているそうです。
WACCAで気づいた、身近なアートとしてのファッション
宮武氏は、これまで自身の制作を「アート」として強く意識することはあまりなかったと話します。
しかし、WACCAで展示を行った際、来館者からかけられた言葉が、その認識を変えました。
「先生の作品、これはアートですよ、と言われて正直びっくりしました」

買い物や食事の目的で訪れた人が、偶然作品と出会い、率直な言葉を投げかけてくる。
専門的な説明をしなくても、それぞれの立場で受け取ってもらえることに、ファッション表現の可能性を感じたといいます。
また、WACCAでの発表は、作品の扱い方にも変化をもたらしました。
「1年目につくった作品を、翌年に解体して、別の作品に組み込んでいます。売って終わりではなく、循環させられるのはアップサイクルならではだと思っています」
展示がゴールではなく、次の制作につながる通過点として機能している点も、WACCAならではの特徴でした。
学生と街をつなぐタッチポイントとしてのWACCA
WACCAでのショーや展示は、学生にとって外の世界とつながる貴重な経験にもなっています。
ショーを見た高校生が興味を持ち、オープンキャンパスを経て共立女子大学に入学したケースもありました。
また、ユザワヤの利用者から「孫に勧めたい」と声をかけられたり、服作家から展示会への誘いを受けたりと、想定していなかった出会いも生まれています。
「子ども向けワークショップで、『先生、来年も来てね』と言われるのが本当にうれしいです」
こうした反応を受けて、学生たちは自分たちの表現が誰かの日常に届いていることを実感するようになりました。
宮武氏自身も、WACCAでの経験を通じて、ファッションやデザインを通じた街との関わり方や、まちづくりへの関心がより具体的になっていったと語っています。

これからWACCAで挑戦する人へ
商業施設という制約の多い環境であっても、WACCAではスタッフが企画段階から寄り添い、実現できる方法を一緒に考えてくれました。
「WACCAの皆さんが一緒に考えてくださるので、挑戦しやすい環境だと思います」
WACCA ART Awardは、作品を展示する場であると同時に、学生、アーティスト、事業者、来館者が交差し、新しい循環が生まれる場でもあります。
次にこの場所で、新しい表現の輪を広げるのは、この記事を読んでいるあなたかもしれません。

