English

HOME > みきたまき 氏(DamaDamTal)インタビュー

みきたまき 氏(DamaDamTal)

WACCA ART 関係者インタビュー

アートユニット「DamaDamTal(ダマダムタル)」として活動するみきたまきは、2023年に募集が開始されたWACCA ART Award 2024への応募、そして翌シーズンの冬季装飾プロジェクト2024への参加を通じて、商業施設という環境での展示に向き合ってきました。そこで今回は、みきたまき氏にWACCAを実際に展示空間として活用してみた時の感想や、商業施設とアートの可能性についてお伺いしました。

ワッカアート インタビュー DamaDamTal

池袋との“再会”がもたらした視点の変化

みきたまき氏にとって池袋は、かつてアパレル企業の社員として働いていた場所です。百貨店での勤務は華やかで刺激的でしたが、仕事に追われる中で、自分が大切にしていた感覚が徐々に遠のいていくような時期でもあったと語ります。その池袋にアーティストとして戻ることは、当時の自分と今の自分のあいだをつなぎ直すような体験でもありました。

「仕事でいっぱいだったあの頃の自分に、“違う景色があるかもしれない”と思ってもらえるものをつくりたいと思いました」

WACCAの階段や通路で休む人たちの姿は、彼女にとってかつての自分と重なり、商業施設という“日常の流れの中”に、作品がすっと入り込む可能性を感じさせたと言います。

WACCA池袋 ワッカアートの様子

アワード応募から冬季装飾へ——作品を“商業施設に寄せていく”プロセス

WACCA池袋 ワッカアートの様子

WACCA ART Award 2024の応募のために、初めて展示会場としてWACCAを下見した際、みきたまき氏は「余白が少なく、どう展示を展開できるかイメージしにくかった」と率直に語ります。白い展示空間とは異なり、WACCAは常に多くの情報が存在する場。そのため、来場者の思考や視線がどのように動くかを読むことも難しく、普段から場所に応じて素材や表現を変える彼女にとっても、商業施設は新鮮かつ大きな挑戦でした。

「ここでどうやって、何を展開できるんだろうと思いました」

しかしアワード応募に向けて企画を練る中で、みきたまき氏の中に「商業施設に寄せてしまおう」という発想の転換が生まれます。空間の構造や人の動きを作品に取り込み、建物そのものを素材として扱う方向へとシフトしたのです。

また、「アート作品とショーウィンドウのディスプレイの違い」に興味を持っていた時期でもあり、WACCAでの展示はその自分の問いに対峙する機会にもなりました。

アワード応募から冬季装飾までの期間には、コンセプトのブラッシュアップも進みました。応募当初は「百貨店のような空間」を模した企画でしたが、みきたまき氏が大切にしている“夢のような風景をつくる”という方向へと再構成され、より自分たちの理念に寄せたかたちで冬季装飾に臨むことになります。

冬季装飾で起きた、観客との偶然の“交わり”

冬季装飾ではDamaDamTalだけでなく、いくらまりえさんをパートナーに迎え、吹き抜けの吊り作品、ガラス面での展示、通路での構成に加え、館内を移動しながら展開するパフォーマンスにも挑戦しました。これにより、商業施設の日常とパフォーマンスの境界が曖昧になり、来場者が“出会ってしまうアート”の状況が生まれました。

「展示を見に来たわけではない方が、ふと足を止めてくれる瞬間がとても面白かったです」

パフォーマンス中に演者の衣装の一部が落ちた際には、通行者が自然と拾って手渡すという場面もありました。アートを鑑賞するつもりでいなかった人が、作品の一部を担ってしまう。この“偶然の参加”こそ、みきたまき氏がWACCAで強く感じた魅力です。

「誰かの日常の中に、作品がすっと入り込める場所なんだと感じました」

WACCA池袋 ワッカアートの様子

商業施設ならではの可能性を模索できた、スタッフとの交わり

WACCA池袋 ワッカアートの様子

冬季装飾を実現するうえで、WACCAスタッフの協力姿勢も大きな支えになったと言います。吹き抜けエリアでの深夜作業や、細かい調整が必要な場面でも、WACCAのスタッフが意図を汲みながら柔軟に対応を検討してくれました。

「スタッフの皆さんが一緒に動いてくださったことで、こちらも応えたいという気持ちが強くなりました」

WACCAが“まず拒絶で入る”のではなく、アーティストの提案を受け止め、一緒に考え、動いてくれる。その姿勢が、柔軟な発想やチャレンジを後押しし、短期間でも密度の高い制作を可能にしました。こうした協働は、商業施設という制約の中でも創造性が広がる余地があることを示していたとも言えます。

“音”をめぐる気づき——最近の作品への接続

みきたまき氏は近年、積極的に“音”を取り入れた作品制作を行っています。その背景には、WACCAでの展示経験がありました。商業施設は常に音が溢れているため、作品としての“音”を成立させることは決して容易ではありません。しかし、その難しさこそが新しい気づきを生みました。

「商業施設はノイズが多いので、冬季装飾の制作活動が、音をどう鑑賞者に届けるかを本気で考えるきっかけになりました」

冬季装飾での “その場で音を鳴らす” 試みは、後のインスタレーションや、街歩き型音声作品「声」シリーズへとつながっています。(「声」は録音された語りや音と、街の風景が重なり、現実と物語の境界を曖昧にする体験型の作品です。)

WACCA池袋 ワッカアートの展示

制約があるからこそ磨かれる表現、広がる関係の“輪”

WACCA池袋 ワッカアートの展示

WACCAはギャラリーではなく、展示のために最適化された空間でもありません。そして、この“最適化されていない環境”で、アートコンペを開催することに葛藤もありました。

けれど、みきたまき氏はその制約を「作品の強度を高めるための機会」だと受け止めました。

「厳しい環境だからこそ、作品の強度が増したと感じています」

美術館のように、作品を見る準備を整えた観客だけが集まる場所ではなく、WACCAでは作品が“野に放たれた状態”で日常の中にいる鑑賞者と出会います。その偶然性の中で受け止められるリアルな反応が、作品だけでなく、作家としての視点を磨き上げることにつながったと語る姿が印象的でした。

一方でWACCAとしては、商業施設ゆえの制約をどうクリアするか、日々工夫しながら展示を支えてきました。深夜作業への同行や細かな要望に対して対応など、「できる限りのサポート」を続けてきましたが、それが結果として作家の満足度につながり、みきたまきからは「スタッフが寄り添ってくれたからこそ、アイデアが加速した」という言葉もありました。WACCAが拒絶ではなく“伴走”の姿勢を示したことで、アーティストからもより大胆な発想が生まれる環境が成立していたことは、施設にとって大きく嬉しい発見でした。

さらに、みきたまき氏はWACCA ART Awardの企画としての今後の期待として、「どれだけ多くの人に見てもらえるか」「WACCAに来れば面白いものが見られるはず、という期待感を生み出す大切さ」に触れました。これは、WACCAが単なる“場所の提供”ではなく、来場者と作品との“出会いの質”を育てていく役割を果たし得ることを示唆しています。

WACCA ART Awardや冬季装飾といった取り組みを通じて、WACCAという場所が成長していくと同時に、関わるアーティストも共に成長していく。その相互作用が広がっていく様子は、“輪”が連鎖しながらつながりを広げていくようで、私たちに希望と夢を見せてくれました。

WACCA ARTはこれからも、アーティストの挑戦を受け止め、その表現がより豊かに育っていく場でありたいと願っています。そして、ここで生まれたつながりが次の挑戦へとつながり、未来へと広がる“輪”となっていく夢を具体的に描けた、そんなインタビューとなりました。


top