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WACCA × 水田雅也 インタビュー
WACCA ART 関係者インタビュー
反響が見えにくい場所で展示するということ
——記録と対話が残した、WACCAでの実感
水田雅也氏は、WACCA ART Award 2024のグランプリ受賞者として、WACCA池袋で展示を行ったアーティストの一人です。今回は水田雅也氏に、WACCAで展示を行った際に感じた戸惑いや手応え、そして展示を終えたあとに残った実感について、お話を伺いました。

WACCAとの出会いと、展示者としてのスタート
水田氏がWACCA ART Awardを知ったきっかけは、熱海で開催された展覧会「ATAMI ART GRANT」からの繋がりでした。そこの運営用Discordの投稿を見て、初めてWACCAの存在を知り、応募を決めたといいます。応募時点ではWACCAも池袋もほとんど知らず、事前に現地を見に行くこともありませんでした。
「出す前にWACCAには来れなくて、ウェブサイトとか、見れるもので場所を見た気がします」
初めて現地に来たのは二次審査(面接形式)のタイミングでした。その時点で水田氏の中には、「応募段階では知れる情報だけで大枠を出し、実施は決まってから場所や地域を見て考えよう」という前提があったといいます。テーマとして決めていたのは「フクロウ」で、そこは動かさずに、細部は滞在やリサーチを通じて詰めていくスタイルの提案でした。


「”フクロウ”ってテーマは動かさないと決めていましたが、自分の作風として、それ以外は滞在したりして作っていくイメージでいました」
受賞が決まった後で、フクロウに関する場所(フクロウ木兎資料館など)を巡ったそうですが、地域の人へのリサーチでは、応募前に想像していたような「詳しい人に話を聞きながら深掘る」展開にはならなかったとも語っています。その“想定とのズレ”が作品の方向性を改めて考えるきっかけになり、ダジャレの要素が強くなっていった経緯がありました。
「ダジャレは元々好きだったので、シンプルに”池袋とフクロウでダジャレから始まってる”という点を、分かりやすく主軸にしようと思いました」
展示を「見に来ていない人」との距離
採択後、顔合わせを経てWACCAを“展示会場として”あらためて見たとき、水田氏は商業施設の難しさを感じたと話します。買い物モードの来館者が多く、下階はくつろぐ空気があり、「作品を見るモード」をどう作るかが課題になりました。

「展示会場としてめちゃくちゃ難しいなって思いました。作品を見るモードになってないというか、買い物するモードで来てるし……どう見ていただけるのかなって」
水田氏は、作品を鑑賞する際には「ある種の緊張感」を作りたいと考えていましたが、WACCAの空間は「入りやすさ」を優先して設計されているように感じたと語ります。その“真逆の空間の質”をどう成立させるかが、制作の最初の壁になりました。
一方で、水田氏はWACCAだからこそ生まれた“呼びやすさ”も語っています。たとえば、リサーチで出会った人に展覧会を案内したところ、普段WACCAを利用している人が、気軽に足を運んでくれたことが印象に残っているといいます。
「展示をやりますって話したら、普通にWACCA利用してる方で、行く行くって感じで来てもらって。ギャラリーや専門の場所とは違う開かれた感じがしました」
また、ユザワヤに行く常連の方など、WACCAの別の目的で来る人の中に作品が“伝わる”感覚もありました。展示だけの場所では出会わない層と接触できることは、WACCAならではの特徴だったと語ってくれました。
制作が広がった瞬間——「掛け合ってみます」の一言
水田氏の展示は、当初は4階ギャラリー中心の想定でした。しかし制作を進める中で、「館全体を使った方が面白そう」「吹き抜けも使ってみたい」という気持ちが強くなっていきました。そこで水田氏は、運営スタッフに「施設のどこが使えるか?」と相談をしました。
「どこが使えますか?って聞いたら、”頑張れば、どこでも使えるかもしれません!”みたいなことを言ってもらって」
「提案をしてくれれば、施設も前向きに考えてくれる」という姿勢が示されたことで、水田氏のアイデアは大きく広がりました。
「”ダメかもしれないけど、掛け合ってみることできます”って言っていただけたのが、一緒に頑張っていける感じがして嬉しかったです」
“作家が頑張る”だけでなく、“施設も頑張ってくれる”と感じられたことが、制作のモチベーションを押し上げたといいます。

プレ展示が生んだ制作リズム

水田氏は、展覧会に先駆けて行う「プレ展示」が制作に与えた影響も大きかったと振り返ります。展示が2回あることで、制作の締切間際の「ゴリっと進める瞬間」が2回生まれ、結果として進捗が加速したと話します。
「良かったのは、単純に締切が二つになるということで、ガッと進める瞬間が2個あったことです」
また、プレ展示で滞在する時間が増えたことで、「この場所でどうやろうか」を考える時間が確保できたとも語っています。
商業施設ならではの“音”と“アナウンス”
設営は時間の制約こそあったものの、運営スタッフに相談しながら夜の作業時間を確保でき、吊り作業などは利用者がいない時間帯に行うなど、調整しながら進められたといいます。また、安全面でも相談に乗ってもらいながら進められたのが良かったと話します。
ただ、展示の成立に直結したのが“音”の問題でした。WACCAは静かな展示空間ではなく、周囲のテナントや環境音がある中で、音量や聞こえ方を調整する必要がありました。その調整にも施設側が伴走してくれたといいます。
「音量の調整を運営スタッフさんが一緒にやってくれて、あちこちの店舗を周りながら、適切な音量を決めることができました」
さらに水田氏は、商業施設ならではの要素として館内アナウンスに作品に組み込んだことも印象に残っていると語ります。
「館内アナウンスは商業施設らしいものの一つで、できる訳がないと思っていたけど、相談する中で実現の可能性を見出すことができました」

トークイベントで生まれた、言葉としての手応え

展示だけでは掴みにくかった反応が、言葉として返ってきたのが展覧会の会期中に開催されたトークイベントでした。審査員や参加者と直接話し、フィードバックを得られたことが、水田氏にとって大きな意味を持ったといいます。
「トークで直接フィードバックをもらえたのは、個人的にすごく満足感がありました」
トーク後に食事の場で話せたことも含め、展示とは別の形で「反応を受け取る接点」になったと語っています。
記録として残ることの意味
WACCAでの展示を振り返る中で、水田氏が繰り返し言及したのが「記録として残ること」の価値でした。丁寧に撮影してもらえたこと、展示記録が残ることがありがたかったと話します。
「撮影も丁寧に、ここお願いしますって言いながら撮っていただいて。展示記録を取っていただけるのはありがたかったです」
特殊な空間で制作した記録が残ることは、作家にとって次につながる資産になります。展示が一過性で終わらず、後から振り返り、外へ提示できる形になる。その点でWACCAのアーカイブ姿勢は、水田氏の実感としても強く残りました。

これからWACCAで展示・応募する人へ

最後に水田氏は、WACCAでの経験を「商業施設で展示する感覚というより、商業施設を素材にして面白いことができるアワードだった」と整理します。放送や人の流れを含め、商業施設ならではの要素が作品の一部になったことも、その実感を支えています。
また、展示後にWACCAへの印象が変わったことも語っています。くつろげるスペースが多く、コーヒー一杯で長くいられる感覚、公共性と商業性が混ざっている感覚が心地よく、「勝手にホーム感ができた」と話します。
「くつろげるスペースがあるのが嬉しくて、勝手にホーム感ができてます。都内に来るときはちょっと立ち寄ったりして、居心地がいいんですよね」
商業施設として、お客さんの雰囲気や反響の掴みにくさは確かにある。けれど、いつもと違った人に見てもらえる魅了や、対話と記録という形で返ってくるものもある。水田氏にとってWACCAは、作品を置いて終わりではなく、新しい調整を行い、経験の積み重ねが生まれる場でした。
次にこの場所で、自分なりの実感を得るのは、この記事を読んでいるあなたかもしれません。

