― 現地説明会②レポート:WACCAで広がる表現の可能性を探る ―

(WACCA ART Award 2026 募集説明会 & トーク Vol.2)
WACCA ART Award 2026 の募集が進むなか、池袋のWACCAでは第2回となる現地説明会が開催されました。今回は、これまでWACCAで継続的に企画を行ってきたアーティストと、施設運営を行う審査員によるトークが行われ、「WACCAで制作するとはどういうことか」が、より実践的な視点から語られました。
登壇したのは、タップダンサーの 米澤 一平さん、画家でC-Depot代表の 金丸 悠児さん、そして運営会社・英振株式会社の取締役であり審査員の 簱 明美さん の3名。司会は、審査員の 戸井田 雄さん が務めました。
応募する人にとって気になる、
「どんな使い方ができるの?」
「実際に展覧会をやってみて、気になったことは?」
「どこまで調整ができる?」
という点について、”WACCAでの経験が非常に豊富な実践者”にお話しをお伺いしました。
お2人の経験が豊富な分、 “自分には難しいかもしれない” と感じてしまう方もいるかもしれませんが、実際には、WACCA ART Awardは実績を問わず、まずは自由に挑戦してほしいアワードです。本記事では、実践者の視点を紹介しつつ、これからの挑戦のヒントになるように、これまでの挑戦をまとめました。

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1. WACCAとの出会いと、ここで生まれた表現
最初のトピックでは、ゲストの金丸さんと米澤さんが、WACCAとどのように関わってきたのかが紹介されました。
金丸さんは、WACCAの初期から長く企画を続けており、アートと既存コンテンツを掛け合わせる取り組みを数多く行ってきました。
「Wantedのビラを館内に貼りめぐらせるような企画も、相談するとほぼOKが出た。むしろ“もっとやって”と言われたことが印象的でした。」
WACCAが「規則で縛る」のではなく、「可能性を探す」姿勢を持っていることを示すエピソードです。

パフォーマーの米澤さんは、2021年の七周年企画でパフォーマンスディレクションを担当しました。館内のさまざまな場所でパフォーマンスを行った中でも、特に印象的だったのが5階トイレ前の空間だったと語ります。
「水族館の通路のように見えた。そこに少し照明や音を加えるだけで、日常が変わる感覚があったんです。」
通行する人、働く人、買い物に来た人など、多様な人との偶然の出会いが生まれることも、WACCAならではの魅力だといいます。

簱さんは、WACCAの建物が生まれた背景を次のように語りました。
「池袋の多様性を否定せず、そのまま受け止め、街と一緒に楽しめる施設をつくりたいという思いがあった。」
アート専用の建物ではないからこそ、日常とアートが自然に混ざり合う場所。それがWACCAというお話しでした。
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2. 商業施設だからこそ生まれる工夫と発見
金丸さんは、WACCAでは美術館やギャラリーと異なる前提が必要だと語ります。
「静かに鑑賞する前提ではない。触れられることも、破損リスクも前提にしながら構成を考える必要がある。」
WACCAでは、キャンバスプリントやボード出力など、扱いやすい素材を工夫して使うことも多いとのこと。
米澤さんは、“偶然の出会い”が大きな鍵だと話します。
「普段そこに何もない場所に突然表現が現れる。そのほうが、この場所では豊かな体験になる。」
施設内では飲食・買い物・移動などが同時に行われ、鑑賞環境が常に変化するため、その“環境ごとの複層的な画面”も作品の一部になると語りました。
簱さんは、施設側の姿勢として「規則で排除しない」方針を示します。
「安全が守られるなら、“どうすればできるか”を一緒に探したい。」
この言葉は、応募者にとって非常に心強いメッセージと言えます。

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3. テーマ「商業施設とアートの水際」をどう捉えるか
今年度も継続テーマとなっている「商業施設とアートの水際」。応募者から「難しい」という声も多いテーマですが、今回の説明会ではそのヒントとなる視点がより深く語られました。
簱さんは、商業施設ならではの“偶然性”をテーマに結びつけます。
「アート目的ではない人が、たまたま目にして何かに気づく。その偶然がこのテーマにある。」
WACCAでは、アートと日常が常に混ざり合う状況があり、境界が曖昧になる瞬間が生まれます。
金丸さんは、WACCA特有の設備を「表現の素材」として捉える視点を示しました。
「階段、サイン、ガラス面、通路の形状…すべてが作品の一部になる可能性がある。」
テーマを実現するために、特殊な作品や大掛かりな仕掛けが必要なわけではなく、「この空間にあるものをどう読み替えるか」という視点でも解釈できることがわかります。

米澤さんは、より比喩的にテーマを捉え、“水際”の本質を次のように語りました。
「砂浜(商業施設)と海(アート)を自由に行き来できる場所。それが水際だと思うんです。」
深く作品に入り込むことも、日常に戻ることもできる。この自由な往復可能性こそ、テーマの大きなヒントになります。
こうした言葉から、テーマを“何か難しい概念”として捉える必要はなく、WACCAという環境の中に自然に存在している“揺れ”や“重なり”をどう見つけるかが鍵と言えるでしょう。
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4. WACCAでこれから実現してみたいこと
金丸さんは、体験型コンテンツや、オンラインで事前に興味を高める仕掛けなど、展示を“会期前から育てていく”ような企画案を紹介しました。
米澤さんは、月1回のシリーズ企画やナイトWACCAの活用、テナント全体を使った回遊企画など、WACCAならではの可能性を語りました。
簱さんは、プレ展示と本展示の2段階構成が、企画の変化を肯定する仕組みであり、その変化を施設としても歓迎していることを強調します。
「応募時の企画から変わってもいい。その変化をポジティブに受け止めています。」
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5. コンセプトを崩さずにWACCAで企画するためのヒント
このセクションでは、「やりたいことがあるのに、無理に施設へ寄せすぎてしまう」「コラボを意識するあまり、作品の本質がぼやけてしまう」という応募者に向けたアドバイスが語られました。
金丸さんは、美術的な作法と、多くの人に届く表現が必ずしも同じではないと話します。
「美術的な正しさと、商業施設で伝わる表現は分野が違う。ただ、どちらが正しいということはなく、まずは両方を体験し、合う形を探せばいい。」
つまり、どちらかに寄せすぎる必要はなく、自分の軸を持ちながら、場所に合う形を調整する ことで作品がより強くなるという考え方です。そしてWACCAではその両方に挑戦ができるという可能性が語られました。
米澤さんは、コラボレーションの本質をより具体的に語りました。
「提案した人に責任がある。相手の表現も“自分の表現”だと思えるかどうかが大事。」
無理に合わせるのではなく、
相手の良さを生かしつつ、自分の作品の“核”をどう保つかが重要だといいます。
また、コラボを通じて、
「自分では生み出せなかった景色に出会える。それがコラボの喜び。」
と語り、コラボレーションが作品に新しい視点をもたらす可能性を強調しました。
このように、実践者2名のアドバイスは具体的ですが、応募者は 最初から同じレベルで考える必要はありません。
まずは「自分がやりたいこと」を基点にし、必要に応じて施設側や他者と調整しながら作品を育てていく姿勢が大切です。

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6. 応募者へのメッセージ
最後に、応募を検討している方へ向けて、3名からメッセージが送られました。
● 簱さん
「重く考えず、まず“やってみたい”を出してほしい。経験やバックグラウンドは関係ありません。」
● 金丸さん
「各フロアの特徴を活かして、自分のイマジネーションを広げてほしい。少し攻めた提案でも大丈夫です。」
● 米澤さん
「まずは歩いてみて、自分が心を動かされる場所を探してみてほしい。不確かなことにも挑戦してみてください。」
今回語られた内容は非常に実践的ですが、これはあくまで WACCAを何度も使ってきた実践者の視点 です。応募者には、まず気軽な気持ちで「やってみたい」を出してほしいというメッセージが繰り返し語られました。
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WACCA ART Award 2026 応募受付中(締切:12月31日)
WACCA ART Award 2026 の応募締切は 12月31日。
ジャンルや経験を問わず応募できます。 詳細:https://wacca.tokyo/wacca-art/
まとめ:WACCAは、表現が“更新され続ける”場所
WACCAで展示するということは、作品が環境と出会い、変化し、街の中で新しい価値を持つということです。
•アートと日常が混ざり合う空間
•偶然が生まれる導線
•街との接続
•挑戦を歓迎する運営体制
•プレ展示から本展示へ続く長い伴走
こうした特徴が、WACCAを“ここでしかできない表現が生まれる場所”にしています。
今回の登壇者は経験豊富な実践者ですが、応募者が同じレベルを目指す必要はありません。
まずは、自分の「次の表現」を気軽にWACCAへ持ち込んでみてください。

カテゴリー:アート
