小道の奥に何がある?池袋で落語さんぽ 後編
実は池袋には、池袋演芸場という通好みの寄席(よせ)があるんです。
今回のさんぽは妹はお休みで、姉のソロ散歩。
小道の奥に何がある?池袋で落語さんぽ 前編からひきついだ後編です。
池袋駅の西口から徒歩数分。西一番街のアーケードをくぐると、見えてきました、池袋演芸場。
2階は「ザ・昭和」といった趣の渋い喫茶店で、演芸場は地下にあるようです。「池袋の森」といい、この演芸場といい、池袋の横道には何があるかわかりません。1階のチケットブースでチケットを買って、いざ地下へ。
ダンディな紳士の後に続きます。階段の両側は石庭風の演出。
小ぢんまりと居心地のよい場内。
池袋演芸場は、都内に4軒ある寄席のひとつです。客席は90席ほど。どの席に座っても出演者の声や表情がよくわかり、1人ひとりの持ち時間も長いので、熱心な落語ファンに喜ばれているのだそう。比較的初心者が少ない寄席、といわれるゆえんです。
そんなところに、完全素人が乗り込むわけですから緊張していたのですが、家庭的なムードで安心しました。この日は昼の部と夜の部の2回公演。昼の部は14時スタート、17時ごろまでで、10人が出演します。入場料は2000円ですが、途中から入っても大丈夫。遅めの時間だと、割引になることもあるようです。
ロビーの掲示板に、演目が貼りだされていました。
残念ながら舞台は撮影禁止でしたが、座席はほぼ満員。落語好きらしい男性のひとり客、2人連れのマダム、ロングヘアの美女など、客層はさまざまです。アラサーおひとりさまが紛れても浮きません。よかった。
舞台がとても近いので、噺家の身振り手振りはもちろん、目線やちょっとした声色の変化までダイレクトに伝わってきます。妙にもにょもにょした声で枕を始めた橘家文左衛門師匠。凄みのある風貌に似あわぬ小さな声で、大きな舞台だったら聞こえないんじゃ? と思っていると、本題の「寄合酒」にあわせて「ろれつがまわらない」風を装っていたことが判明。「寄合酒」が始まると、みるみる声が変わってぞくっとしました。
長屋の若い衆が集まって、酒の肴を持ち寄ることに。与太郎が原っぱで拾ってきた味噌を、犬の落とし物と疑って匂いをかいだり、舐めてみたりする師匠。
苦渋の表情で「……まだ、どちらともいえないんだよ」。
そのしぐさがおかしくて、笑わずにはいられません。大の大人が昼間から集まって、無邪気な下ネタに大喜びしているこの感じ。何だか気持ちがほぐれます。
トリの入船亭扇辰師匠の「ねずみ」も素晴らしかった。子どもの客引きにつかまって、ボロボロの旅館「ねずみ屋」に泊まることになった優しい旅人。なぜこんな商売をしているかを主人に聞くと、実は向かい側の大きな旅館「虎屋」の主人だったのに、妻と番頭に騙されて息子ともども追い出され……と身の上を語り始めます。すると旅人は、「それなら私が、お客がたくさん来るようにひと肌ぬごう。あまった木切れはないかい?」なんと、天才大工として名高い左甚五郎だったのです。
利発でずうずうしい子どもと、いかにも好々爺といった旅人のやり取りを楽しみながら、仙台の城下町を旅する気分にひたれる前半。後半では思いもよらぬ旅人の正体が明かされて、一気に物語が展開していきます。そのテンポの爽快さといったら! アート好きとしては、おじいさんは左甚五郎だったんだ、と分かった時点でさらにテンションアップです。
やっぱり、生で聞く落語って全然ちがう。その場にいるだけで噺家のエネルギーを分けてもらえるような、とても心地いいひとときでした。
夢から覚めたような気分で地上に出て、本日最後のお目当てへ。演芸場前を北に歩き、最初の角を左に曲がると、左手の雑居ビルに「中国茶館」の看板が見えます。
こちらは、5代目柳家小さん師匠が愛用していたという中国茶と飲茶のお店。私も以前に来たことがあり、2度目の訪問です。
「池袋の楽屋で、『おい、ちょっと(食べに)行こう』と声がかかるんです。茶館で、もう、いやってほど食べさせられる。何しろ、料理でテーブルがいっぱいにならないと機嫌が悪いんだから。小さん師匠を止められるのは、お孫さんの柳家花緑師匠だけ。」
とは、本日の散歩のガイドブック『噺家と歩く「江戸・東京」』の一節です。小さん師匠がテーブルいっぱいに注文したかった気持ち、わかります。「中国茶館」では、2人以上から頼める2500円の飲茶コースにすると、約80種類もある点心やデザートが食べ放題になるのです。90分間というオーダー制限はありますが、席には2時間いられるので、心ゆくまで飲茶三昧が楽しめます。
妹と一緒だったら、絶対に食べ放題にしたのに! と悔しく思いつつ、おひとりさまの今日は1500円の「茶館セット」で。自慢の8品とデザート、鉄観音茶つきという、こちらもお得なメニューです。ひとりでも飲茶をあきらめずに済むなんて、なんて素敵なお店でしょう。
お店の人が、鮮やかな手さばきで淹れてくれるお茶。香り高く、お湯をいれかえてたくさん飲めます。脂肪排泄、アンチエイジングなど、嬉しい効果がいっぱいの心強いお供です。
とろける大根もちとエビのニラ焼き饅頭。この2つは外せません。
パリパリの春巻きと、ぷりぷりのエビのアーモンド揚げ。
じゅわっとスープがあふれるかぼちゃ風味の小龍包と、黄ニラ入り鳥蒸し餃子。
揚げたてのキュートな針ねずみカスタードまん。ココナッツ胡麻団子もほんのりあたたか。
甘くないウーロン茶ゼリーに、あまーいミルクソースをたっぷりかけたデザート。
お店は、常に並んでいる人がいる人気ぶり。ひとりだと相席になりますが、大きな円卓なのでリラックスできます。
妹の分までお腹いっぱいに食べて、幸せ気分にひたったところで本日は終了。外はすっかり夜。暗闇にそびえる煙突が、昼間とは別の顔をしていました。
噺家さんのパワーを分けてもらって、落語の細道に分け入る楽しさを満喫した今回。落語を見たあとは、いつもより「人が好き」な自分になれた気がします。
気疲れがたまったときは、池袋でさらりと落語。これはもう、最高の特効薬かもしれません。
■池袋演芸場
http://www.ike-en.com/
住所:〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-23-1 エルクルーセ
電話:03-3971-4545
■中国茶館 2号店
住所:〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-22-8
電話:03-3985-5183
カテゴリー:アート