13

池袋モンパルナス探訪記 乱歩の蔵は「頭脳の迷宮」だった 後編

どーん! でかい!

そびえ立つ「幻影城」。「土蔵の暗闇の中で、蝋燭を灯して探偵小説を書く怪人」という江戸川乱歩のイメージの源となったのが、この土蔵です。豊島区指定有形文化財でもあります。

14残念ながら中には入れませんが、入口のガラス越しに中をのぞくことができます。

見渡す限り、あらゆるジャンルの蔵書の海です。正面には2階に続く梯子があり、上にもさらに本棚が。全部で2万点近くの本や資料があるそう。

15英語のペーパーバックに哲学書、チェーホフやドストエフスキー、谷崎潤一郎など乱歩が好んだ作家の著作集、歌集・全集モノ、江戸時代の版本……。作家の荒俣宏さんは、この土蔵を見て「頭蓋骨に覆われた乱歩の大脳そのもの」と批評したそう(平凡社『江戸川乱歩』より)。

「あんないいおうちなのに、おうちの外にある土蔵にこもって小説書いてたの? セマイトコロコモリスキーだね」(妹)

そう、乱歩はこの蔵を書斎がわりにしていた、というのは良く聞く話。しかし後ほど調べてみたところ、ちょっと違ったようです。

16息子の平井隆太郎氏の著書『乱歩の軌跡』によると、この土蔵は冬の寒さが耐え難く、書斎にしようしたものの結局は「只の書庫に成り下がってしまった」。ただ、自慢の北欧風の大テーブルは据え置き、雑誌の写真撮影などに使っていたとのこと。

「おやじはいつも自分の寝床で、腹這いになって書いていましたよ」なんて証言もあり……そりゃそうだよね、と親近感を覚えたのでした。

土蔵を堪能した私たちは、立ち去り難く周辺をウロウロ。落ち着いたメガネの係員さんが、さりげなく注意を払うなか、

1718「いかに変なポージングで写真を取るか。これがアラサー姉妹散歩の真骨頂と言えるでしょう」(妹)

と調子に乗る姉妹。見事ガードが厳しくなってきた辺りで退散しました。

時刻を見ると、はや昼すぎ。「腹減った」と不満げな妹をなだめつつ、乱歩邸近くのアゼリア通り、通称「乱歩通り商店街」に寄ってみました。目印の旗があるはずなんですが、

1920「なんもねえ」(妹)

そう、ごくアッサリとした商店街だったのです。おいしそうな今川焼屋さんとか、マニアックそうなバーなど気になる店はあるものの、乱歩感はなし。やっと見つけた二十面相印の黄色い旗が、風にたなびくばかり……。

21ただ、この通りには「日本ミステリー文学大賞」を主催する光文社のビルがあり、「ミステリー文学資料館」が併設されているのです。今回は休館中でしたが、『虚無への供物』で知られる中井英夫展の予告ポスターが掲示されていました。

22きっとここはいいよー、残念だったね! とごまかしつつ、池袋駅にほど近い、昭和12年創業の「御菓子司 三原堂」へ向かいます。乱歩のお気に入りだったという和菓子店です。

23241階の販売コーナーには、銘菓「池袋 乱歩の蔵」が。フクロウの形の「池ぶくろう最中」もキュートです。お店の方によると、乱歩は上生菓子を良く買っていたそう。

252階の甘味処へ上がります。ゆったりして落ち着いた雰囲気。

26「ロマンス通り」のアーケードを見下ろしながら、緑茶でひと息つきます。

こちらのあんみつは、料理評論家の岸朝子さんの好物だったそう。しかし私のオーダーは決まっていました。それは、フレンチトースト! 和菓子屋さんなのに……という意外性もあるし、テーブルに並べば絵的にも美しいハズ!

ところが奴は、

「フレンチトーストの前に、甘くないものが食べたい」(妹)

そう、「三原堂」は軽食も充実しているのです……。結局、鶏出汁のにゅうめんを注文。

運ばれてきた熱々のにゅうめん。味見させてもらうと、これが確かに美味でした。 あっさりとしてお腹に優しい味。

28そしてフレンチトースト。バニラアイスと粒あんがこんもり。そこに黒蜜をトロリとかけていただきます。フワトロのフレンチトーストとあんこ、相性抜群。たまりません。

29しかしこのカット、絵的にどうなの……。もちろん、フレンチトーストの半分は妹の胃袋に消えていきました。

江戸川乱歩三昧の1日も、これにて終了。じつは乱歩は大の引っ越し魔で、46回目に行き着いたのが池袋だったのだそう。そしてこの地が、終のすみかとなりました。

人呼んで「池袋モンパルナス」、多くの芸術家が暮らしていたことも、乱歩が池袋を離れなかった理由と無関係ではないはず。夜の夢を追い続けた小説家の「大脳」は、幸運にも空襲を焼け残り、今もこの街の片隅に息づいているのです。

■旧江戸川乱歩邸(立教大学江戸川乱歩記念大衆文化研究センター)
http://www.rikkyo.ac.jp/aboutus/profile/facilities/edogawaranpo/index.html
住所:東京都豊島区西池袋3-34-1
開室日:月・水・金曜(公開は水・金曜のみ)
時間:10:30~16:00
※公開日の見学は予約不要

■ミステリー文学資料館
http://www.mys-bun.or.jp/index.html
住所:東京都豊島区池袋3-1-2
開館時間:9:30~16:30(入館は16:00まで)
休館日:公式サイトを要確認
入館料:300円

■御菓子司 池袋三原堂
http://www.ik-miharado.shop-site.jp/index.html
住所:東京都豊島区西池袋1-20-4
営業時間:池袋三原堂 10:00~19:00
2階甘味処 11:30~18:00
休業日:1月1日・2日・3日