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WACCA ART AWARD 2024 グランプリ 受賞記念イベント 開催レポート

ワッカアートアワード 受賞記念トーク

2024年11月15日に、WACCA ART AWARD 2024グランプリ受賞者の水田雅也様と、2024年の審査員である青木 彬 氏・西田 祥子 氏・戸井田 雄 氏にご登壇いただき、受賞記念トークを開催いたしました。

イベントレポートを公開いたしますので、WACCA ART AWARDにご興味をお持ちの方、WACCA ART AWARD 2025へのご応募をお考えの方はぜひご一読ください!

作品について(水田雅也 氏より)

今回は、いわゆる普通の「作品っぽい作品」を作るっていうのは、ちょっと違うのかなと思っていました。
この商業施設ならではの雰囲気を生かせたらと思い、商業施設に流れている館内アナウンスなどの「商業施設っぽい音声案内のようだけど、ちょっと異物感がある」みたいな表現を目指したくて、このような形になりました。

ワッカアートアワード グランプリ展覧会 WACCA池袋1階

1階は、階段状のところで人が座って、スマホいじったり、クレープ食べたり、ボーっとしながら正面を見ている、そんな場所だと感じました。
ただ通るだけの人もいれば、本当にいろんな人が滞在する場所に、 ちょっとだけ耳に残るような音声を浴びせるような場所にしたいと思いました。
そこで「それでは皆様ご一緒に、フクブクロウ」といった音声を、何なのか分からない人もいるくらい、うっすら聞こえるイメージで作品を作りました。

そこから、興味を持って上に登ってくる人というのは、展示を見るために施設内を巡るみたいな気持ちが強くなってくる人なのかなと思い、だんだんと上に行くごとに、少しずつ自分の言いたいことというか、主張みたいなことを入れてみました。

ワッカアートアワード グランプリ展覧会 WACCA池袋4階ギャラリー

4階のスピーカーの形や展示の構成については、ガラスに付いているスピーカーボックスだけ形が違うのですが、これが「公共的なものから言われる音声」みたいなイメージで作っており、それが池袋の街の景色が見える方向の、しかも上から流れていて、それに対して小さなスピーカーボックスたちがツッコミを入れているというイメージです。
しかもそのツッコミが、「本当にその意味があるの?」とか指摘したり、ツッコミが駄洒落になっていたりします。演劇ではないですが「物語みたいな空間」にしたくて、このような形になりました。

個々のスピーカーの形はかなり抽象的にしていますが、本来は一つで良いスピーカーの穴のをあえて2つにして、「フクロウの目」にも見える形にしており、色は福袋の赤色でもあります。

ワッカアートアワード グランプリ展覧会 WACCA池袋3階吹き抜け

4階のギャラリーを見た後に、最後に吹き抜けから見ることが出来る3階の映像は、自分が池袋の夜に深夜徘徊をしている時に、まちにお店が多いというのもありますが、文字情報がものすごく多いということが気になってつくった作品です。
その文字の中には「フクロウ」もあれば、「フク」にかけた言葉もあり、言葉遊びができるような場所だなって点に面白さを感じて、毎晩、深夜徘徊しながら撮影しました。

撮影は、動物の罠を仕掛ける時とかに設置しておく「ナイトカメラ」で撮影しており、本当に動物を撮るような感覚で、深夜徘徊をしながら、文字を色々と撮っています。
音声は「自分から切り離す」イメージで文章をかっちり書いていますが、 映像は「自分の視点を入れる」イメージで作っており、その映像を動線的に最後に見られるように考えました。

映像を見られる場所に来ると、吹き抜けから建物全体を俯瞰できるような場所になっていて、上から見下ろせるし、施設内で買い物してるお客さんも見えるし、座ってる人も見えるし、1階の音声聞いてる人も見えるし、そんな風に全体が見える点が面白いなって思って構成しています。

昨年度審査員からの質問

実は審査の前から水田さんの作品は知っていましたが、今回の応募を見て、リサーチをもとに作品を制作するスタンスが、このアワードに合うのではと思い、非常に楽しみにしていました。

実際の展示を見て、応募の時のプランと比べると、展示会場を大きく使っている点と、この赤い象徴的なスピーカーなど、良い意味で最初のプランからかなり変わっていると感じました。

ワッカアートアワード 受賞記念トーク

このアワードの特徴として、受賞してからの時間が本当に長いです。この「時間の長さ」についての質問となりますが、 受賞が決まった瞬間と、今ここで、どういう風に作品が変わってきましたか?

プレ展示を1回挟んで展覧会が実施されるというのが、良かったなと思います。

プレ展示では、悩んでいることも公開するみたいな感じで、途中経過を公開してみました。

ワッカアートアワード 受賞記念トーク

しかも、アイデアを掘り下げてみるための「ダジャレ井戸端会議」と題して、ダジャレの専門家とここで話したりも出来ました。
ダジャレ井戸端会議は、ダジャレ専門家の方とダジャレについて話す場でしたが、そのための資料を結構作り、ダジャレの歴史とか、言葉遊びの歴史などをまとめる機会にもなりました。
また、そのダジャレを普段から考えてる専門家の方側からのダジャレを軽く見ちゃいけないっていう感じのお話も聞けたのが良かったです。

それを1回挟んで、またさらに本番まで時間があるというのは、結構考える時間も作れるし、池袋とWACCAに来るタイミングも増やせたので、良かったです。

審査のことも振り返ると、実は、最初の書面でのプラン審査では、自分は少し辛口でした。アーティストにとっての新しいチャレンジができる点が、このアワードの面白さだと思った時、水田さんはプランがまとまっていた反面、「まとまり過ぎている」気がしました。
経験値もある方というのも分かったし、キャッチーなテーマの設定も出来ていたので、スムーズに展覧会が出来過ぎてしまうことを懸念してました。 

ただ、審査の2次審査の面談で、その印象がガラッと変わりました。
今までの作品から継続している「動物のモチーフ」というコンセプトを聞いた上で、そこに「商業施設」や「池袋という地域性」が入った時に、思わぬ角度で新しい切り口が見えるのではないかという面白さを感じました。

アワードの構成として、この書類審査と2次審査の面談があるということが、自分にとっても面白い経験でしたし、このアワードの魅力かもしれません。

ここで展示したアーティストの意見として聞きたいのが、率直に展示してみてどうだったかということです。
今回の展覧会は「空間の使い方」がうまいなと思いました。
例えば、その1階のスピーカーも、別に1階に独立して置いてあって良いのですが、そうではなく、吹き抜けからスピーカーのケーブルを下ろしていて、そのケーブルが上の会場に誘導してくれるような役割も働いてます。

また、最後の映像作品も、4階から吹き抜けを通して、3階のモニターを見る形になっており、そこで再度この施設全体が見れます。
その映像を見れる位置に立つと、別のスピーカーから暗示のような音が聞こえます。それが、こういった施設に日常のアナウンスが流れてる中で、なにか全く違うチャンネルに連れていかれる感じがして、それを街並みだったり施設の中の風景を上手く作品の下地にしたりしてる点が、空間の使い方が非常にうまいと思いました。

ただ、実際に制作と展示をしてみて、「やっぱり商業施設って難しい」と思った点とか、逆に「ここは楽しんで出来た」とか、そういう点があったら聞いてみたいです。

ワッカアートアワード グランプリ展覧会 WACCA池袋 吹き抜け
ワッカアートアワード グランプリ展覧会 WACCA池袋 吹き抜け

元々は、今まで商業施設でやったことなかったからこそ、施設の制約ごとを取り込んで、それを生かして展示が出来たらいいなとは思っていました。
ただ、実際にどんな展示にするかはとても悩んで、5月のプレ展示の時はこのギャラリースペースだけみたいな感じで空間を仕切って、そんなに展示方法は悩んでいなかったのですが、そこからどうしたものかなっていうのは、建物を見ながら、巡りながら、ずっと考えていました。

それで、やっぱり難しいと思ったのが、モノの量が多い点です。テナントの商品もあるし、まず作品として 目立たないというか、作品みたいなものを置いたとしても、全然、作品を見るモードで人が見てくれないみたいな。
僕はその「モードを作る」のが好きで、作品を認識して、高まりみたいな中で作品を見るっていうのが好きなんですけど、その作品と向き合う体験を作るのが、ものすごく難しいなっていうことを感じてしまいました。

それをどう作っていくかを考える中で、作品がこの赤色になったっていうのもありますし。あと、 統一感を出したかったっていうのがあります。
「1階のスピーカーとギャラリーは繋がりがあるんだ」みたいな、全体的にとか、なんかそういうとこで悩みつつ、こういう結果になったのかなっていうことを感じてます。

水田さんは、WACCAの設営を同時に六甲での展覧会に参加されたり、去年は熱海で展示をされています。他にも色々な展覧会に参加する中で、 WACCAの展示会の特徴とかはいかがでしょうか?

ワッカアートアワード 受賞記念トーク

商業施設で展示をするといっても、商業施設の本当に小さな部屋で作品を置いて飾るとか、そういう展示の表現もあると思います。ただ、そうではなくて「商業施設というものを使った作品作り」みたいなことを考えようとした時、WACCAは一緒に作り上げていってくださったなっていう感じがして、それが やりやすかったなっていう感覚があります。

「どうやってこの商業施設で鑑賞体験を作っていくか」ということを、一緒に考えてくださったのが、すごく良かったです。

参加者様からのご質問(回答:水田雅也 氏)

――水田さんは、「六甲ミーツアート」にも参加され、自然の中で展示されていたかと思いますが、WACCA は環境として大きく違います。自然と都会というフィールドの違いによる来た人へのメッセージの違いと、それを伝える作品表現の違いについてはいかがですか?

自然と都会という違いもありますが、六甲の方は、芸術祭で作品を見に来る人と、山道の登山の通りがかりでたまたま鑑賞する人がいました。
芸術祭に来る人は、作品を見に来ている人ですし、登山の方は結構のんびりその周りの景色を見ながら楽しむみたいなような 感じで見に来られるので、自然にすっと見てもらえるような感じはありました。

一方、こっちの商業施設や都会だと、買い物をするっていう目的があったとしたら、その途中での出会ったものをたまたま見るみたいなケースは少ないかと思います。
例えば、スマホを見ながら目的のところまで行くとなると、そもそも視界に入らないみたいな人とか、 そういう状況の人が結構多いかなと感じました。
なので、気づいてもらえる、気づいてもらえないみたいなのも違うと感じました。

伝え方については、今回は4階のアナウンスの方に結構言いたいことを詰めたつもりです。ここで感じたこととか、ダジャレや、言葉遊び、言葉だけで関わることの希望と、その希望ではない一面など、言葉で話すと難しいですが、そんなことが伝わればと思ってまとめました。

――水田さんは作品制作時のフィールドワークで池袋周辺を回られ、雑司ヶ谷では住民の方からもお話が聞けたと伺いました。そこで聞いた話や写真はどのように作品に組み込まれていますか?

今回は結構 雑司ヶ谷のTさんの話から、かなり影響を受けています。Tさんはずっと雑司ヶ谷の近くに住んでいて、子供の頃はアオバズクを見ていたけど、今はもう見ないそうですが、つい数年前に突然フクロウの鳴き声を聞いたそうです。
それですごいテンションが上がって、その時に鳴き声を録音して動物の詳しい人に持って行ったら、「これはフクロウかもしれない」みたいなこと言われて、本当にテンションが上がったそうです。
そんな体験から、「やっぱり本物のフクロウがいいんだよな」ってTさんは言っており、「 池袋の石像にしても、あそこにリアリティがないんだよな、だから興奮しないんだよな」みたいな話しから、鳴き声だけでも、リアリティがある方がテンションは上がるし、リアリティが欲しいっていうような話をしてくださいました。

ダジャレなどの言葉との結びつきというのは、そこにはリアリティはなくなっちゃうけど、 1回結びつくことによって、いけふくろうみたいにどんどん新しい物語が今生まれていってるじゃないですか。そういう面白さに気づけたという点でも、今回はTさんの話に強く影響されているかもしれません。

――今回この作品を拝見させていただいて、視覚としては映像はありますけれども、文字がない。そして視覚的な説明もない。
このアナウンスで聴覚に訴えるっていう点にフォーカスされた意図はありますか?

ダジャレは音が同音っていうのが大事で、できればあんまり文字での明示をしたくなかったというのがありました。だから、ガラスに付いているスピーカーには文字も表示されるんですけど、全部をひらがなにして、そこでも誤読や誤解みたいなことが生まれていいんじゃないかみたいな姿勢で、このような表現にしました。

――六甲とかの展覧会だと、アートを見ようという関心のある方がマジョリティーだとすると、ここは「たまたま来たら、なんかやってる」っていう方が多い場所です。
そういう「アートに関心がない人たち」に 逆に作家として伝えたいというか、こんなこと気づいてくれたら嬉しいなっていう、思いみたいなのはおありになりますか?

鑑賞体験というか、その作品に触れる体験が何段階かあってもいいのかなと思っています。1階もそうですけど、4階にもベンチ椅子を真ん中に置いているので、ふらっと間違えてというか、普通に休憩しに来る人もいました。

本当に何も聞いていない人もいますが、本当に記憶にうっすらと残るみたいな、そういうくらいのレベルでも、何かしらの広がりがその中で生まれる感じがして、しつこく連呼しています。でも、それこそが、商業施設ならではの、関心のない人に普及する形だとも思っており、そういう干渉というか、そういう触れ方もありなのかなって思っています。

――エントランスから鑑賞者が徐々に引き込まれる中で、先ほどのお話で「目にみえるスピーカー」と、掲示されている写真のフクロウの目が印象的でした。

本物の目にはやっぱり、リアリティがあります。
この写真は池袋のふくろうカフェで、そこでは本物がいて触れ合える場所で、こっちの方が、本物じゃないイケブクロウの像より、やっぱりリアリティがあります。
これは、先ほども話したナイトカメラで、赤外線カメラなので、動物の目が光っています。

ワッカアートアワード グランプリ展覧会

今後のWACCA ART AWARDに向けた期待

最後に、今後のこのアワードに向けた期待を審査員から一言ずついただけますか?

先ほどの水田さんのお話にもありましたが、審査の時から取材をしている方とか、作品と対峙する人に、色々なレイヤーがあるということを、すごく意識されてる作家さんだなっていう風に思っていました。
今回の作品も、アートに興味ない人に対しても、 サブリミナル的に頭の中に残すなど、関心のレイヤーの違う色々な人たちに向かっている作品が出来上がっているということがすごく良かったなと思いました。

そういう意味では、すごく時間を使って準備が出来るアワードなので、プランとして出していただいたものは最終的に違うものになっても良いので、その時間をうまく使ってくれる人にあげたい賞だなっていうことを最初から思っていました。
なおかつ、この商業施設という、普段来ない人にも開いている賞であってほしいと思っていたところで、水田の作品を実際に拝見して、よりその思いを強くしたという気持ちです。

また、この1回目というのはすごく大変で。それを最初に作ったっていうのはすごいことで、次に続く人たちにとっては本当に大事なマイルストーンになったかと思います。
その上で、また新しい、水田さんとは違う使い方みたいなものを発見してくださるような作品がたくさん来るということをまた期待したいなと思っています。

ワッカアートアワード 受賞記念トーク
ワッカアートアワード 受賞記念トーク

1回目の審査から、すごく意識してたのは、こういう場所でプロジェクトや展示をしていくという経験が、アーティストのその後のキャリアと経験に、どう活きるかなみたいなところも重要な点になると思います。 

個人的には、キュレーターという仕事は「アートを社会化していく役割」だと考えています。僕はギャラリーとか美術館ではない所で仕事をすることの方が多くなるなかで、まさに水田さんが「いわゆる鑑賞をしにくる人だけじゃない人と、対峙をしなきゃいけない」って意識されたことに共感しますし、アーティストがそうした活動を拡げてくれることに希望を感じたりもしています。
僕は、こういう経験をキュレーターだけじゃなくてアーティストも持っていくことで、もっとアートを社会化する人が 増えていくし、そういう経験をもっとみんなで積んでいきたいと思っており、そういう意味で、このアワードはアーティストの次のキャリア形成にとって、すごく大事な機会になると思います。

また、1回目として、 水田さんとしても事前に準備して持ってきて、全部が実現できる訳ではない場所で、「ぐるぐるこの場所を回りながら、どう展示しようか考えていた」っておっしゃってくださったのは、審査した立場としても嬉しいお話でした。
そういう風に、「場所と向き合った」というのが、展示としても表れている展覧会になっているし、それをこれから応募を考えている方もぜひ見に来ていただきながら、自分だったらこの場所をどう使えるかを考えてもらうことで、また新しい場所の使い方とかも見えてくると思います。

そして、それがアーティストにとっても、どんどん新しい挑戦というところに繋がっていくと思っており、その点をすごく楽しみしています。

最後に、個人的にこんな作品を見てみたいなとか、次に出す人へのメッセージをお願いします。

自分がWACCAで見てみたいなと思うのは、商業施設を使うというか「商業施設をハックする」みたいな感じの作品です。そういったものを作りたいとなれば、このアワードは本当に協力的で、施設と一緒に作り上げていくようなことが出来るのではないかなと思っています。

また、まだ未知の提案でも、「施設としても、これはまだやったことないので一緒に考えましょう」とか、そういったような感じで、 じわじわ進められるかなって感じもしています。
なので、元々持ってたアイデアから、実際にここを見て、それを繋げる企画を考えるみたいな、そんな応募の仕方もいいなと思いました。

ワッカアートアワード 受賞記念トーク

ワッカアートアワード 受賞記念トーク

WACCA ART Award 2025 ただいま応募受付中!(2024年12月31日締切)

ワッカアートアワード2025参加募集要項はこちらから
WACCA ART AWARDグランプリ受賞者には、賞金20万円+展覧会制作補助費30万円!
館内での展示・企画展を開催していただきます。

応募テーマは、「商業施設とアートの水際」

主催:WACCA IKEBUKURO 協力:一般社団法人ミーツ・バイ・アーツ


カテゴリー:アート 


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