山 / 野 / 海 あるがままの食の魅力再考 夏の名残・秋の気配 職人館 北沢正和

「今日のメインは、3つのきゅうりの食べ比べです」

「『野にあるがままなる』を感じてほしい」

「本当は、なるべく食べないほうがいい」

どれも、8月22日に開催された「食を楽しむ」がテーマの講座『山/野/海 あるがままの食の魅力再考 夏の名残・秋の気配』に登場された北沢正和さんの言葉です。

発言の主・北沢さんの職業は料理人。長野県・佐久市で北沢さんが営む職人館は、2017年と2018年の2年連続、食べログ「そば」百名店に選ばれる名店で、 農林水産省制定の検証制度「料理マスターズ」では第1回目の受賞者に選ばれるなど、料理人としても輝かしい実績をお持ちの方です。

一体どんな料理を味わうことが出来るのだろう。そんな有名な料理人が作る料理とは、どんなものなのだろう。

期待に胸を膨らませる参加者の前に出されたのが、冒頭の3つのきゅうりの食べ比べでした。お皿に並んでいるのは、適度な大きさに切られた3種類のきゅうりと、お味噌のみ。

加えて、講座開始に合わせていくつも料理が並べられていきますが、並べられる料理を見れば見るほど、私たちが思い描く「料理」とは、少しズレている……。

「やよいちゃんトマト バジルの香りで」「緑長ナスと水ナスのユズ酢の香り漬け」などなど、施されているのは最低限の調理と味付けのみ。炒めたり、じっくり煮込んだり、色鮮やかなソースが掛かっていたりと、「料理」と言われて想像するような「調理」が、ほとんどされていないお皿ばかりが並びます。

それでも、講座開始とともに参加者の皆さんが一斉に料理をよそい、口へと運べば、会場中の雰囲気が一気に柔らかなものになり、同時に小さな驚きの声があちこちから漏れてきました。

「美味しい」

手の込んだ調理はされていないはずなのに、美味しいのです。

味も食感も形も、ほとんどが食材そのままなのに、箸が止まりません。別の料理から料理へと移るときには、「次はどんな味がするのだろう?」と、ワクワクさえしてきます。

トマトやナス、帆立貝など、これまで確かに食べたことのある食材のはずなのに、初めて食べたような錯覚を覚えるものばかり。

特に、メインである3つのきゅうりの食べ比べをするときは面白く、普段なら考えることもない、水々しさや硬さ、味の違いを感じ、楽しみながら、バクバク食べてしまうほどでした。

一通り、参加者全員が料理を味わい、講座のタイトルである『野にあるがままなる』を五感で感じたところで、北沢さんによる解説が始まりました。

「よく考えると、素材が悪かったりへたったりした時に、料理人ってものはいるんだよね」

「もう、『土の料理人』がね、料理してくれているものには、なるべく手を加えないのが原則だと思う」

「料理の技とか、ソースっていうのは、都市で発達するんだよね」

普通の人が思い描く「料理」とは、まるで真逆の発想の解説なのですが、五感で納得している参加者はみな、北沢さんの発言に深くうなずいています。

「今はね、流通網が発達した発達したって言うけどね、素材がいい加減なものが多すぎるんだよね」

「本来の、『野にあるがままなる』の味からどんどんどんどん遠ざかって、そういうものしか知らないと思うんだよね」

今まで私たちが美味しいと感じていたもの、その「味」は確かなものなのか。参加者一人一人の価値観や経験・五感を揺さぶるような言葉が、北沢さん独特の優しい口調で続き、その日味わった料理と一緒に、体の中に染み込んでいく--。

「料理人が言うことじゃないと思うけどさ、究極はね、なるべく『食べない』ってことだね」

北沢さんの発言に、会場内は笑いで包まれますが、みんな、続く言葉に聞き入ってしまう。

「今、必要以上にみんな食べ過ぎる。料理することによって、へたった食材などを食べてしまって、腸にものすごい負担がかかる。分解するために酸素も使って、血液も濁る」

「野の動物たちを見てみると、食べ過ぎるなんてことはしない」

『食を楽しむ』イベントをイメージしていたはずが、食について、私自身の健康について、考えさせられる時間に--。

これがただの講演会だったなら、ここまで深く納得することもなく、多くの講演会がそうであるように、聞くことでわかったつもりになって終わってしまったことでしょう。

でも、五感で感じるこの講座では、北沢さんの言葉が、体の中まで染み込んできて、体から納得してしまう。しかも押し付けがましくない、温もりさえ感じる言葉、食の力を通して、同じテーブルに座る見ず知らずの参加者たちもすぐに打ち解け、和やかな雰囲気に会場は包まれていました。

スタートから今年で3年目を迎えた「人気講座」のこの日の参加者は、28人。

子どもから大人まで、年齢や性別・国籍など一切関係なしに参加できる講座で、どんな人が参加したとしても、今後の人生においてかけがえのない「気づき」が得られる空間です。

「料理の究極は、『野にあるがままなる』を、なるべく火も入れない、余計な調味料も使わない、あるがままなるを大切にして、元気でいるってことだと思う」

北沢さんの言葉を、生で聞きたい方、もしくは五感で感じたい方は、年内は10月と12月に予定されていますので、ぜひチェックしてみてください。

あなたと食の関わり方が変わる記念日に、きっとなるはずです。